【003】『経営を診る』3つの視点

 中小企業診断士である山田隆司が、
経営学の理論とコンサル現場の実践から
中小企業における経営学の活用について
お送りいたします。


【要約】
 経営診断には、経営を10つの領域に分け、
 それを基本に、「成長ステージ」「ビジネスモデル」
 「組織成熟度」の3つの視点が必要です。

 企業の成長ステージには、「創業期」「成長期」
 「成熟期」「衰退期」の4つがあります。
 
 自社がどのステージであるか認識して、
 ステージ毎に適切な企業活動をとりましょう。

【結論】
 企業の成長ステージ毎に適した経営判断
 適切なソリューションでなければ、
 偶然の成功はあっても、成功し続けることは
 できません。
 経営の理論を理解したうえで、適切なタイミングでの行動が必要です。

 

【はじめに】
 すべてにはライフサイクル(循環)があります。
人生には、幼少期・青年期・壮年期・老年期というように
循環するサイクルがあります。
経済にもまた景気循環や、企業には成長サイクル、
製品にはプロダクトライフサイクルと、
さまざまなサイクルがあります。

■参考

プロダクト・サイクル論は、アメリカの政治経済学者
R・バーノンを中心とするグループにより
1960年代中ごろに展開された理論です。

出所:L・T・ウェルズ編、柳原範夫他訳『国際貿易と国際経営――プロダクト・ライフ・サイクルと国際貿易』/嵯峨野書院(1976)

 

1.プロの経営診断は3つの視点で診る

  前回のブログでは、経営の全体像を10つの領域で
 解説しました。企業の経営状態を把握するためには、
 これだけでは正しく把握できません。
 10つの領域を基本に、さらに3つの視点をもって
 経営を診る必要があります。

 1つ目は、時間軸を考慮する「成長ステージ」、
 2つ目は、ビジネス構造を示す「ビジネスモデル」、
 3つ目は、集団の質をレイヤで示す「組織成熟度」

 適切に経営診断するためには、以上の視点が
 必要となります。

 今回は1つ目の、企業の成長度合いを
 時間軸で類型化した「成長ステージ」
 について解説いたします。

2.企業ライフサイクルとは?

 人生にライフサイクルがあるように、
 企業にもライフサイクルがあります。

 企業の成長度合いを時間軸で分類すると、
 創業期、成長期、成熟期、衰退期の
 4つのステージで表すことができます。

 次に示す図表は、成長ステージごとに
 どのタイミングで、どのような企業活動が
 重要視されるか記載したグラフとなります。

 グラフは一般的なモデルであり、
 縦軸に、利益の高さの事業規模の大きさ、
 横軸に、時間の経過を表しています。
 時代や業界によって違いもあります。
 

 最近では、市場への浸透速度が速いこともあり、
 市場が一気に形成され、急激に立ち上がっても
 すぐに収束してしまう傾向が強く表れていると
 言えます。

 

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図表:成長ステージ図


 また、各成長ステージごとに企業が目指す目標や
 企業活動が変わってきます。
 次にそれぞれのステージの特徴を解説します。

 Ⅰ.創業期
  開業して間もなく収益が不安定な状態。
 商品やサービスの開発や準備を試行錯誤しながら、
 特定の顧客をターゲットに、取引が開始される。
 開業費に加え、広告宣伝費にも多くの資源が
 必要となっていきます。

 ニッチな顧客を中心にした取引となるため、
 競合も少ないが、市場規模も小さい。
 成長率も低迷した状態を推移していき、
 利益総額もあまり多くない傾向があります。

 Ⅱ.成長期
  顧客層が拡大し、市場に浸透していく段階。
 市場が成長し、競合もでてきて競争が激化していく。
 先行者優位と市場のポジションを確立するため、
 継続的な広告宣伝等の投資も進めることになります。
 事業も軌道に乗り、事業規模も全国展開するなか
 人員増加に伴い、透明な人事制度の構築や、
 公平な就業規則の整備、福利厚生の充実によって、
 急速な仕組化・組織化が進む必要がでてきます。

 Ⅲ.成熟期
  市場の成長率は鈍化して、市場規模が
 飽和状態となっていく状態です。
 参入企業も自然淘汰されて、市場は
 寡占状態となってことになります。
 知名度も上がって顧客層も一般大衆化が進み、
 安定した利益率を継続して出していきます。
 高い利益率を原資として、次の事業の柱を
 形成するため、新規事業への
 積極的な投資を模索していく必要あります。

 Ⅳ.衰退期
  新しい代替商品や新技術の登場で、
 市場自体が縮小していく状態。
 売上が減少し、成長率も減少を続け、
 成熟期の企業体制のままでは
 企業を維持することができくなります。
 資金が底をつき廃業する前に、
 支出を抑えて、事業縮小や人員整理、
 M&Aなどの事業統合により
 市場規模が縮小しても利益を出せる
 体制へ再構築することが必要となります。


3.成長ステージに合わせた様々な施策
 コンサルティングには、経営診断のほかに、
 成長ステージ毎に合わせた様々なメソッドと
 それに対応したソリューションを用意しています。
 成長ステージ図に示した一例を、
 5つにまとめた概要を解説します。

 ①「事業継続計画(BCP)」
  リスクマネジメントの一貫で台風・水害・地震など
  自然災害による緊急事態に遭遇した場合に、
  安全の確保、損害を最小限に留める施策を行う。

 ②「経営革新計画」
  抽象的な理想のありたい姿を想定して、
  現状との乖離から逆算して課題を設定し、
  可能性のある行動計画を策定する。

 ③「経営改善計画」
  見えている具体的なあるべき姿を目指して
  現状との乖離を適切な課題に設定して
  戦略と実行性のある解決策と実施手順を計画する。

 ④「事業再生計画」
  事業が衰退して財務的にも債務超過が続き、
  現金の減少によって事業継続が困難な状態から
  適切な規模に縮小して、リスケジューリングを
  伴った再建計画を施策する。

 ⑤「事業承継計画」
   経営者の年齢的な引退を見据えて、
  後継者への事業承継を計画的に進める施策である。
  承継には親族内、従業員、第3者の3つに分類できる。


4.企業の成長ステージを見極めるには?
  同じ企業であってもタイミングや環境によって、
 適切な対処方法が違ってくる。
  例えば、スタートアップしたばかりの企業に、
 全国展開のための組織化を整備しても、
 市場を確立することが、適切な事業規模の見極めが
 できなければ、設備の過剰投資になりかねない。
 または、不況に陥って、産業全体が衰退している状況で、
 拡大路線を狙って積極的な投資をしたとしても、
 赤字を拡大させていくだけになる。

 直感や偶然で一時成功することはあるだろう。
 しかし、成功し続けるためには、基本的な理論と
 適切な行動が必要になってくきます。

 いかがでしたでしょうか。
 企業を時間軸で俯瞰して見ることで、
 経営を長期的で適切なタイミングを知ることで
 新しい視点に気づいて頂けたと思います。
 これで少しでも経営を学ぶきっかけになれば幸いです。
 ありがとうございました。


【次回予告】
 次回は、経営を診る2つ目の視点
「ビジネスモデル」について解説いたします。

 製品の品質や多額な設備投資だけでは
グローバル企業に勝てなくなって、
久しくありません。
世界の潮流は「ビジネスモデル」競争に
すでに移行しています。
業種・業態別のビジネスモデルに掘り下げて
取り上げてみたいと考えております。

それでは、次回もご期待下さい。